熱 中 症 予 防 

     
  熱中症とは、暑熱環境で発生する障害の総称で、熱失神、熱疲労(熱ひはい)、熱射病、熱けいれんなどに分けられます。この中で最も重いのが熱射病で、死亡事故につながります。  
     
 

救急処置へ

 
     
  スポーツによる熱中症事故は、無知と無理によって健康な人に生じるものであり、適切な予防処置さえ講ずれば防げるものです。ひとたび事故が起きると人命が失われるだけでなく、指導者はその責任を問われ、訴訟になる例もあります。また死亡事故にいたらなくても熱中症になると、その後しばらくスポーツ活動を休まざるを得なくなり、トレーニングの面からもマイナスになります。そもそも、暑熱環境下ではトレーニングの質が低下する上に消耗が激しく、トレーニング効果もあがりにくくなります。このような意味から、熱中症を予防することは、効果的なトレーニングを進めることにも通じます。  
     
  熱中症予防の原則はすでに確立されたものですが、死亡事故が毎年発生しているということは、スポーツ指導者や選手にこのような熱中症予防の知識が未だ十分には普及していないためといえましょう。また、熱中症を予防するためには、熱中症予防の原則を具体的にどのようにスポーツ活動に適用すればよいのかが問題になります。すでに外国においては、こうしたスポーツ活動における具体的な予防指針がいくつか発表されていますが、残念ながらわが国では責任ある団体によってこのような指針が示されたことはありませんでした。  
     
  このような背景から、平成3年度に日本体育協会に「スポーツ活動における熱中症事故予防に関する研究班」が設置されました。この研究班では、スポーツ活動による熱中症事故の実態調査、スポーツ現場での測定、運動時の体温調節に関する基礎的な研究など幅広く研究を進めてきました。こうした研究成果をもとに、平成5年には熱中症予防の原則を「熱中症予防8ヶ条」としてまとめ、具体的なガイドラインとして「熱中症予防のための運動指針」を発表しました。  
     
     
  1,知って防ごう熱中症
熱中症とは、暑い環境で生じる障害の総称で、次のような病型があります。スポーツで主に問題となるのは熱疲労と熱射病です。
 
     
  熱失神
暑熱環境下では、体温調整のために皮膚の血管は拡張します。このような皮膚血管の拡張によって血圧が低下、脳血流が減少しておこるもので、めまい、失神などがみられます。脈が早くて弱くなり、顔面蒼白、呼吸回数の増加、唇のしびれなどもみられます。長時間立っていたり、立ち上がった時、運動後などにおこります。
 
     
  熱疲労
大量の汗をかき、水分の補給が追いつかないと脱水がおこり、熱疲労の原因となります。熱疲労では、脱力感、倦怠感、めまい、頭痛、吐き気などの症状がみられます。
 
     
  熱けいれん
汗をかくと水と塩分が失われます。汗の塩分濃度は血液の塩分濃度より低いため、大量の汗をかくと血液の塩分濃度は高くなります。大量の汗をかき、水だけを補給した場合には反対に血液の塩分濃度が低下し、その結果、足、腕、腹部などの筋肉に痛みを伴ったけいれんがおこるのが熱けいれんです。暑熱環境下で長時間の運動をして大量の汗をかく時に起こるもので、通常のスポーツ活動での発生は少ないといえますが、最近ではトライアスロンなどで報告されています。
 
     
  熱射病
高温環境下で激しい運動を行うと、運動により発生した熱が体表面から放散することができず体温が上昇し、その結果、脳の温度が上昇して体温調節中枢に障害がおよぶと熱射病になります。熱射病では異常な体温の上昇(40度C以上)と種々の程度の意識障害(応答が鈍い、言動がおかしい、意識がない)が特徴で、頭痛、吐き気、めまい、などの前駆症状やショック状態などもみられたりします。また血液の凝固因子が消耗して血液が固まらなくなったり、脳、心、肺、肝、腎などの全身の臓器障害を合併することが多く、死亡率も高くなります。
 
     
  2,暑いとき、無理な運動は事故のもと
熱中症の発生には気温、湿度、風速、輻射熱(直射日光など)が関係します。これらを総合的に評価する指標がWBGT(湿球黒球温度)です。同じ気温でも湿度が高いと危険性が高くなるので、注意が必要です。また運動強度が強いほど熱の発生も多くなり、熱中症の危険性も高くなります。暑いところで無理に運動しても効果は上がりません。環境条件に応じた運動、休息、水分補給の計画が必要です。
 
     
  3,急な暑さには要注意
暑熱環境での体温調節能力には暑さへの馴れ(暑熱馴化)が関係します。熱中症の事故は急に暑くなった時に多く発生しています。夏の始めや合宿の第1日目には事故が起こりやすいので要注意です。また、夏以外でも急に暑くなると熱中症が発生することがあります。急に暑くなった時には運動を軽減し、暑さに馴れるまでの数日間は軽い短時間の運動から徐々に増やしていくようにしましょう。
 
     
  4,失った水と塩分取り戻そう
汗は体から熱を奪い、体温が上昇しすぎるのを防いでくれます。しかし失われた水分を補わないと脱水になり、体温調節能力や運動能力が低下します。暑いときにはこまめに水分を補給しましょう。汗からは水と同時に塩分も失われます。水分の補給には0.2%程度の食塩水が適当です。
 
     
  5,体重で知ろう健康と汗の量
毎朝起床時に体重を計ると疲労の回復状態や体調のチェックに役立ちます。また、運動前後に体重を計ると運動中に汗などで失われた水分量が求められます。体重の3%の水分が失われると運動能力や体温調節能力が低下しますので、運動による体重減少が2%を超えないように水分を補給しましょう。
 
     
  6,薄着ルックでさわやかに
皮膚からの熱の出入りには衣服が関係します。暑いときには軽装にし、素材も吸湿性や通気性のよいものにしましょう。屋外で、直射日光がある場合には、帽子を着用しましょう。防具を付けるスポーツでは、休憩中に衣服を緩め、できるだけ熱を逃がしましょう。
 
     
  7,体調不良は事故のもと
体調が悪いと体温調節能力も低下し、熱中症につながります。疲労、発熱、かぜ、下痢など、体調の悪い時には無理に運動をしないことです。体力の低い人、肥満の人、暑さに馴れていない人、熱中症をおこしたことのある人などは暑さに弱いので注意が必要です。
 
   
  8,あわてるなされど急ごう救急処置
万一の緊急事態に備え、救急処置を知っておきましょう。
熱中症では予防が大切です。暑いときには熱中症の兆候に注意し、おかしい場合には早めに休むことです。万一の事故に備えて救急処置を知っておく必要があります。各病型での救急処置を下記にまとめました。実際にはこのような病態が重なっていることもあり、現場では熱疲労か熱射病か判断に迷うことも十分考えられます。その際注意すべき症状は意識状態と体温です。軽い意識障害では、意識はあるものの応答が鈍かったり、言動がおかしかったりすることがありますが、少しでも意識障害がある場合には重症と考えて処置する必要があります。
意識がない場合には、心停止や頭部外傷のこともあり、呼吸があるか、脈が触れるか、頭を打っていないかなどに注意する必要があります。
 
     
  1)熱失神、2)熱疲労:涼しい場所に運び、衣服をゆるめて寝かせ、水分を補給すれば通常は回復します。足を高くし、手足を末梢から中心部に向けてマッサージするのも有効です。吐き気やおう吐などで水分補給ができない場合には病院に運び、点滴を受ける必要があります。  
     
  3)熱けいれん:生理食塩水(0.9%)を補給すれば通常は回復します。  
     
  4)熱射病:死の危険のある緊急事態です。
体を冷やしながら集中治療のできる病院へ一刻も早く運ぶ必要があります。いかに早く体温を下げて意識を回復させるかが予後を左右するので、現場での処置が重要です。
熱射病が疑われる場合には、直ちに冷却処置を開始しなければなりません。
冷却は皮膚を直接冷やすより、全身に水をかけたり、濡れタオルを当ててあおぐ方が気化熱による熱放散を促進させるので、放熱の効率が良くなります。また、頚部、腋下(脇の下)、鼠径部(大腿の付け根)などの大きい血管を直接冷やす方法も効果的です。(氷やアイスパックをあてる方法が効果的です。)
循環が悪い場合には、足を高くし、マッサージをします。
症状としては、意識の状態と体温が重要です。意識障害は軽いこともありますが、応答が鈍い、言動がおかしいなど少しでも異常がみられる時には重症と考えて処置しましょう。

またとっさの場合、近くに十分な水が見つからないときの効果的な体の冷却法として、次のことを実行してください。水筒の水、スポーツドリンク、清涼飲料水等を口に含み、患者の全身に霧状に吹きかけてあげてください。全身にまんべんなく吹きかけることにより、汗による気化熱の冷却と同じような効果をもたらします。これらの液体は、冷たい必要はありません。
また熱射病では合併症に対して集中治療が必要ですので、このような冷却処置を行いながら、設備や治療スタッフが整った集中治療のできる病院に一刻も早く運ばなければなりません。

熱射病は、死の危険が差し迫った緊急疾患であることを十分認識してください。

 
     

 

熱中症予防のための運動指針
WBGT 湿球温 乾球温    
31℃

以上

27℃

以上

35℃

以上

運動は

原則中止

WBGT31℃以上では、皮膚温より気温のほうが高くなる。特別の場合以外は運動は中止する。
28℃

以上

24℃

以上

31℃

以上

厳重警戒

(激しい運

動は中止)

WBGT28℃以上では、熱中症の危険が高いので激しい運動や持久走など熱負荷の大きい運動は避ける。運動する場合には積極的に休息をとり水分補給を行う。体力の低いもの、暑さに慣れていないものは運動中止。
25℃

以上

21℃

以上

28℃

以上

警戒

(積極的

に休息)

WBGT25℃以上では、熱中症の危険が増すので、積極的に休息を取り、水分を補給する。激しい運動では、30分おきくらいに休息をとる。
21℃

以上

18度

以上

24℃

以上

注意

(積極的に

水分補給)

WBGT21℃以上では、熱中症による死亡事故が発生する可能性がある。熱中症の兆候に注意するとともに運動の合間に積極的に水を飲むようにする。
21℃

以下

18度

以下

24℃

以下

ほぼ安全

(適宜

水分補給)

WBGT21℃以下では、通常は熱中症の危険は小さいが、適宜水分の補給は必要である。市民マラソンなどではこの条件でも熱中症が発生するので注意。
WBGT(湿球黒球温度)

屋外:WBGT=0.7*湿球温度+0.2*黒球温度+0.1*乾球温度

屋外:WBGT=0.7*湿球温度+0.3*黒球温度

  • 環境条件の評価はWBGTが望ましい。
  • 湿球温度は気温が高いと過小評価される場合もあり、湿球温度を用いる場合には乾球温度も参考にする。
  • 乾球温度を用いる場合には、湿度に注意。湿度が高ければ、1ランク厳しい環境条件の注意が必要。